社会変革のためのプロジェクト

2024/11/28

「3K」と呼ばれた介護業界を変える。介護保険事業にとどまらない事業を通じて、豊かな高齢化社会を目指すアスモの挑戦

※本記事は書籍『伝えたい、未来を創る会社―社会を変え、人を幸せにする会社 未来創造企業』(2023)から再編集しました。


●創業:2001年
●業種:介護事業

●第3期未来創造企業認定
●未来創造企業としての取り組み:訪問介護や福祉用具レンタル・販売など高齢者を支える福祉事業、ポータルサイト「シニアハウスコム」による有料老人ホーム紹介事業、業界を横断する学びの場「アスモカレッジ」

 


 

介護業界を持続可能な業界へ変えていく


介護業界で、訪問介護から施設紹介、教育事業等を幅広く展開するアスモ。

代表の花堂氏が挑戦しているのは業界を持続可能に変えることだ。

保険制度だけに頼らない。
自身でサービス、価格を決定できる事業を行う。

ヨーロッパの有名ブランドと提携した、福祉用品のブランド化を進めるなど、
「3K(きつい・汚い・危険)」とは言われない介護業界を創る。


自分たちが培った知見やノウハウを出し惜しみせず、
業界を横断した学びの場「アスモカレッジ」も創設。

事業を通じて、介護業界への見方を変えることで、
この業界へ参入し働く人を伸ばそうとしている。

さらにその先に目指すのは、高齢者自身の豊かな生き方だ。
花堂氏が楽しそうに話していたのは「高齢者による起業支援」。

介護先進国の日本だからこそ、その枠を変える挑戦を続けるアスモを伝えたい。

 


 

【目次】

●高齢者の自立と生きがいを支える福祉事業
●高齢者や家族の暮らしを支える、有料老人ホーム紹介事業

●培ってきた精神やノウハウを異業種でも活用できるように学びの場「アスモカレッジ」を創設
●豊かな高齢化社会を創造するための新しい取り組み 農業による食の確保や、福祉用品のブランド化

<有識者の視点>

SSC評議審査員 泉 貴嗣

アート性とクリエイティブな発想で、介護事業を超えていく

 

「It’s more+(イツモア)〜生活をもっと素敵に〜」をコンセプトに、
高齢者の自立と生きがいを支える福祉事業


株式会社アスモは、日本の介護体制の核となる在宅福祉事業を展開しています。

 

訪問介護事業を中心に、ケアプラン作成、福祉用具レンタル・販売などの介護保険制度事業と、介護の知見を活かしての周辺事業、有料老人ホーム紹介事業(シニアハウスコム)や教育事業(アスモカレッジ)、農業(アスモファーム)など幅広く展開しています。

 

主となる訪問介護事業では、中野区を中心とした都内のエリアで、地域に根ざしたサービスを提供しています。高齢や障害により身体機能が低下すると、日常生活の中で次第に人の助けが必要になります。しかし、さまざまな理由で周りからの手助けが困難なことがあります。株式会社アスモでは、そういった方々の手助けをすると共に、身体機能の改善を促しています。

 

福祉用具レンタル・販売事業では、介護度やケアプランに応じて、快適な自宅生活ができるよう提案しています。また、住宅改修が必要な際には、自治体への介護保険利用申請のサポートも行っています。

 

介護保険制度が発足して20年余りが経過しましたが、介護保険制度の普及と同時に、高齢者の方々の自立度が後退しているとの実態調査の報告がなされています。株式会社アスモは、利用者の自立と生きがいを意識したケアを心がけ、少子高齢化と財政負担がますます進む中において、制度に依存するような受身的な姿勢を改め、絶えず何ができるのかという姿勢で取り組んでいます。

 

今ある価値観を超えて、「It’s more+(イツモア)〜生活をもっと素敵に〜」をコンセプトに、介護保険事業だけにとどまらない事業展開を進めています。

 

<経営理念>
私たちは世界中の高齢者に安心と安らぎ・生きがいをお届けするとともに、社員の幸せ・福祉に携わる企業の発展・人々が支え合う地域社会づくりに貢献していきます。

 

高齢者と家族を両方生活を支える、
ポータルサイト「シニアハウスコム」を用いた有料老人ホーム紹介事業

 

高齢者の住まいに関する相談窓口として、「シニアハウスコム」という有料老人ホーム紹介ポータルサイトと、有料老人ホーム紹介事業を立ち上げました。長年、在宅介護事業に携わり、たくさんの利用者とそれを支える家族と接してきた現場の経験を活かし、介護する人と介護される人の絆を壊さないための住まい探しをお手伝いしています。

 

人生100年時代といわれる現代において、家族の介護にどう向き合うかという課題は、たくさんの方が抱えています。家族の介護のために離職をする方や、制約のある働き方をしなければならない方も多くなっています。いわゆる介護離職者数は、2019年には10万人を突破しました。

 

介護離職が増えれば、社会においては労働力不足が一層深刻化します。また、働く意欲を持っている方にとって、希望する働き方を選択できない現状を生み出してしまいます。

 

「このまま自宅介護を続けていたら、もしかしたら虐待していたかもしれません」。この言葉は、認知症の母親の介護にかなり精神的な負担を感じていた、とある長男さんの言葉です。自宅介護の壮絶さを物語っています。

 

この相談者は、母親と二人暮らしで、自宅介護をしていました。母親の認知症がかなり進行して徘徊も始まり、自身の仕事にも影響が出るようになったことから、施設探しの相談に訪れました。それに対してアスモは、多様な施設の中でも認知症対応に慣れており、自宅からあまり離れていない施設を数か所提案し、入居することができました。

 

自身の仕事や家事、育児などで忙しく過ごす中、在宅での介護が限界を迎えている家庭も多くあります。病院からの急な退院要請や、家族の急な体調の変化によって、気持ちにも時間に余裕がない中、老人ホームについて調べることは大変な作業です。有料老人ホームは全国で1万5千棟を超えており、ひとことで有料老人ホームといってもさまざまな種類があります。その中から自身や家族に適したホームを探すことは、決して簡単ではありません。

 

シニアハウスコムは、そのような困り事を抱える家族や支援者に寄り添い、それぞれの要望に合う老人ホームを提案・紹介するサービスです。シニアハウスコムの相談員は、介護現場や福祉関連業務を10年以上経験しています。ホームの見学の際には相談員が同行し、施設に対して質問をしたり、補足説明をしたりするなど、手厚いサポートが特徴です。

 

培ってきた精神やノウハウを伝える学びの場「アスモカレッジ」を創設
介護のリアルを伝え、業界内外の多くの人へ価値ある学びを届けたい

株式会社アスモが長年かけて培ってきた精神やノウハウを、介護事業者はもちろん異業種でも活用できるよう、「アスモカレッジ」という学びの場を設立しました。

 

高齢者を取り巻く社会課題や、介護保険制度の基礎知識、有料老人ホーム紹介事業に関わる人的環境についてなど、幅広く学ぶことができます。6時間の講座を受講することで、「有料老人ホーム紹介コーディネーター資格」を取得することもできます。

 

有料老人ホームを紹介することは、単に物件を紹介することとは異なります。家族が何を希望するかを聞き取り、ケアマネージャーや看護師、ソーシャルワーカーの考えを調整しながら、相談者にとって最適な施設を紹介する必要があります。高齢者を取り巻く現状を深く理解し、専門知識をもとにしたコミュニケーションが重要となる仕事です。

 

介護業界は、多くの社会課題を抱える業界の一つです。

 

高齢化社会や介護について知ることは、社会のさまざまな課題を解決するための取り組みにつながります。アスモカレッジのカリキュラムは、介護事業に就きたい方だけでなく、高齢化社会の日本の課題解決に貢献したい方、新しいビジネスを始めたいと考えている方にとっても価値ある学びとなることでしょう。

 

また、老人ホームについて事前に知っておきたい家族の方、いずれ支援を受けるかもしれない高齢者本人にとっては、将来に備えるためのきっかけとして活用できます。

 

アスモカレッジでは、「有料老人ホーム紹介コーディネーター資格」を取得する講座だけでなく、2時間で手軽に学べる、有料老人ホーム紹介の「地域サポート会員」認定講座も設けています。

さらに、紹介センターの相談員として活動したい、新事業として展開したい場合には、事業化のサポートも行っています。事業としての収益性を高め、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」と言われる介護業界への見方を変えることで、高齢化社会に関する社会課題の解決につなげていきたいと、代表の花堂浩一さんは考えています。

 

豊かな高齢化社会を創造するための新しい取り組み
農業による食の確保や、福祉用品のブランド化


代表の花堂さんは、以前より、「これからの未来に備えて、社員とヘルパーさんの食を確保したい」と考えていました。

 

2020年のコロナ禍、これまでの当たり前が当たり前でなくなったことをきっかけに、千葉県四街道市に農場を借りて農業を始めました。春は苗を作り、夏は作物を収穫し、秋は稲を刈り、冬は畑を耕し、と春夏秋冬、色とりどりの野菜たちの自然の恵みを堪能しています。

収穫した野菜は、社員やヘルパーだけでなく、高齢者施設の利用者、地域の子ども食堂、フードパントリーなどに提供しています。

 

農場を通して、地域のかたがたや、社員同士のつながりをつくることにも取り組んでいます。さつまいも掘りや、田植え、稲刈りなどをイベントとして実施し、農業の楽しさと大変さ、新鮮野菜のおいしさを堪能してもらう機会を提供しています。いずれは農業に関する新プロジェクトが、株式会社アスモの事業に加わる予定です。

 

また、介護業界に夢と希望を持てることを目指して、「福祉用品のブランド化」にも取り掛かっています。

 

ヨーロッパの有名ブランドや大手企業と提携して、デザイン性の高い杖やシューズなどの開発を進めています。これまでの福祉用品は、安全性や機能性を優先するあまり、デザイン性は諦められていました。花堂さんは「高齢者こそ、おしゃれを楽しむべき」という考えのもと、魅力ある福祉用品をプロデュースする取り組みを進めています。

 

高齢化社会が進む日本は、世界の中でも介護先進国であるといわれています。介護の仕事で世界に進出することができるという実績をつくり、介護業界で働くことを望む人材が増えることにも期待が集まります。

 

長年介護の仕事に携わってきた花堂さんですが、一方で「介護のない世界を目指すべきではないか」とも考えています。高齢者の健康寿命を延ばすことが、高齢化社会にとって一番望まれているのかもしれません。

 

介護のない世界の実現のために、高齢者がやりがいを持って働くことができる環境、さらには高齢者自らが、自発的にビジネスを起こすことができれば、より豊かに生きられる人生につながっていきます。将来的には、高齢者の起業を支援する事業にも取り組みたいと考えています。 

 


 

<有識者の視点>

SSC評議審査員 泉 貴嗣

アート性とクリエイティブな発想で、介護事業を超えていく

 

介護事業という本業そのものが、高齢化社会におけるさまざまな社会課題の解決に直結しています。しかしアスモの素晴らしい点は、事業を通して介護にまつわる諸問題を解決しようとしているところです。介護施設相談サービスや、介護に関わる人材教育事業など、介護と、介護の周辺領域を一体として捉えた取り組みを進めています。

 

アスモは、豊かな高齢化社会を目指していることが大きな特徴です。杖や靴などの福祉用品を、有名ブランドと連携しておしゃれなものにしようと開発を進めています。高齢者のクオリティ・オブ・ライフを考えた時、心理面での機能性はとても重要です。従来の介護事業にはなかったアート性を取り入れることで、社会課題解決の新たな機軸を見出したり、新たな企業価値を創造したりすることにつながっていく可能性を感じます。

 

私たちは今、社会問題や環境問題に囲まれていますが、その大変さだけに目を向けると息苦しくなってしまいます。だからこそ、アート性を取り入れ、心理的にも長く関われるような工夫をすることの大切さを、アスモの取り組みから学ぶことができます。

 

また、アスモの花堂さんは、介護のいらない世界を目指し、健康寿命を延ばそうと提言しています。人が何歳になっても心身共に健康でいられるためには、社会的存在であり続けることが重要です。シニア世代の起業を支援することで、シニアによる経済圏が創造できたら、高齢化社会にとってインパクトのある一歩になるはずです。介護事業だけでなく、高齢者の自立と生きがいを創る会社になること、それがアスモのミッションなのではないでしょうか。