社会変革のためのプロジェクト

2024/11/19

「ありがたい」「人さまのために」祖母の言葉を胸に、思い出アルバムを通して人の心の体温を1℃上げる夢ふぉとの社会課題解決事業

※本記事は書籍『伝えたい、未来を創る会社―社会を変え、人を幸せにする会社 未来創造企業』(2023)から再編集しました。

 

●創業:1998年
●業種:アルバムを軸とした制作販売、セラピーの提供

●第1期未来創造企業認定
●未来創造企業としての取り組み:オンラインによる思い出アルバム制作の簡易化、アルバムセラピーを通した心へのアプローチ、カンボジアの学校建設などCSR活動

 


 

思い出で人の心の温度を1℃上げる


夢ふぉとは、代表林氏が今も大切にしている

幼少期の「最愛の祖母との思い出」にルーツを持つ企業だ。


「世界で一番大好きだったおばあちゃんの思い出を残したい」

そんな想いからアルバム事業はスタートした。


丁寧な思い出アルバムの制作、オンラインによる制作の簡略化により

制作する文化のない学校にもアルバム作りが広まっていった。


時には、経済性を置いても、走る。

コロナ禍では、卒業アルバムがつくれなくなってしまった子どもたちに、

アルバムの無償提供をすぐに行った。


さらに思い出を通して内面と向き合う「アルバムセラピー」を開始。

過去を見つめることで、未来への新たな希望を生み出している。


「偉い人にならなくても良い、なくてはならない人になれ」

祖母の言葉を胸に、林氏と夢ふぉとは、目の前の一人に向き合う事業を続けている。

 


 

【目次】

●祖母との思い出からはじめた思い出アルバム事業  個人から学校まで、思い出を通して様々な形の支援をする
●宝物となる一生もののアルバム作りのため、一人一人と丁寧に向き合う

●心の問題に向き合い社会課題の解決につなげる「アルバムセラピー」記憶や感情のアウトプットがひとにしあわせと変化を生む
●「その行為は人の心の温度を上げることにつながっているか」理念を胸に、社員一同で思い出づくりの世界ブランドを目指す

<有識者の視点>
SSC評議審査員 天明 茂  
フォトの価値を生かして、人の心を癒し、未来につながる事業を創造

 


祖母との思い出からはじめた思い出アルバム事業
個人から学校まで、思い出を通して様々な形の支援をする

画像出典:夢ふぉと

 

株式会社夢ふぉとは、アルバム事業を軸として、卒業・卒園アルバムを中心としたアルバム制作、思い出アルバムを活用して人の心の問題や悩みの解決につなげる「アルバムセラピー」の実施などを行っています。


代表の林さゆりさんが起業したきっかけは、最愛の祖母との思い出にありました。林さんは幼少時、多くの時間を共に過ごした祖母から日常的に「ありがたい」「もったいない」「人さまのために」「自分を下に」「親を大事に」といった言葉をかけられていました。


林さんは成長してから、祖母の言葉が実業家の著書や自己啓発本で語られる「感謝」や「倹約」「利他」「謙虚」「親孝行」といった、人生や仕事をより良くする心構え・考え方と同じだと気付きます。


「もう亡くなってしまった祖母の本が本屋さんに売っていたら良いのに」と感じたことから、すべての人々のかけがえのない大切な宝物となるのは「思い出」であると考え、思い出アルバム事業を始めました。震災時の被災者の声で、失くした物の中で惜しかった物として、多くの人がアルバムを挙げていたことから、何にも変えられないプライスレスなものであると実感したことも、思い出アルバム事業の動機となっています。


最初は個人向けのアルバムを制作していましたが、少子化や過疎化で卒業アルバムの制作が難しくなってしまった学校の仕事を受注したことをきっかけに、卒園・卒業アルバムの事業に参入。独自にシステムを開発し、ユーザーがインターネット上のソフトウェアを使用して簡単にアルバムを作れるサービスなどを提供するようになりました。


現在では全国各地や海外の日本人学校まで年間約4千校、100万冊以上の制作実績があり、2021年11月には『卒園・卒業アルバム制作会社 総合満足度ランキング』『口コミ満足度』『アルバム編集ソフトが使いやすい口コミ満足度』(調査提供:日本トレンドリサーチ)の3つの指標で第1位を獲得、好評を得ています。


2012年からは、アルバムを使って記憶をたどり、自分の感情や価値観と向き合い参加者同士でシェアする「アルバムセラピー」を開催。「自身の過去の写真を見て、自分が本当にやりたいことを発見し起業への想いが固まった」「写真を見て親に愛されていたと気付き、自己肯定感が高まった」「3時間で心と人生の棚卸しができた」など、キャリア支援や心の問題の解決に効果があるセミナーとして好評を得てきました。


2018年には一般社団法人日本アルバムセラピー協会を設立し、企業研修や学校の授業、終活講座等、子どもから高齢者まで、幅広い世代の方向けに開催しています。


CSRとして発展途上国の給食支援や学校建設などにも長期的に取り組んでおり『アルバムで思い出を残す』という段階まで至らない環境に置かれた子どもたちの笑顔を生み出す社会貢献活動を行っています。

 

企業理念

思い出で人の心の温度を1℃上げます。

 

企業方針

1.お客様と笑顔と感動、感謝でつながる

2.温度のあるものづくりの追求

3.人が学び成長する組織づくり

 

合言葉

1.いつもこころに太陽を

2.思いやりの心を常に持ち

3.みなが幸せな会社を目指します

 

感温・感動・感謝・恕(おもいやり)

たね語録 創業のきっかけとなった、林代表の祖母の口ぐせです。

ありがたい もったいない 人さまのために

自分を下に 親を大事に 皆様お陰様業を目指し、未来の進歩・発展に貢献します。

 

宝物となる一生もののアルバム作りのため、
一人一人と丁寧に向き合う

 

夢ふぉとは創業以来25年間、クレームをクレームで終わらせない取り組みをしてきました。常に仕事が完璧ということはどんな仕事でも難しいもので、どれほど気をつけていても小さなミスは起きることがあります。そういった時に、ユーザーの方が最後には「やっぱり夢ふぉとに頼んで良かった」と思える対応を徹底しているのです。


例えばアルバムの個人写真で名前を1文字間違えてしまった時、他社ではシールを貼って対応するケースも、夢ふぉとではコストがかかったとしてもお客様のご要望通りに、たった1文字であっても印刷のやり直しをして、受け取るお子さんや親御さんの気持ちになって対応してきました。


お客様にとって一生残るアルバムであり、人生の宝物となるかけがえのない思い出に責任と使命感を持っているからです。そして、そのお客様の後ろには、1000人のお客様がいるということを常に念頭において、たった一人のお客様だからと絶対に割り切らないことを心がけています。


コロナ禍の2021年には「卒業アルバムを作れない学校がある」というニュースが流れました。その時、「今が私たちの出番だ」と強く思い、夢ふぉとはすぐに行動しました。


「卒業アルバムを持てない子どもを一人でも救いたい」という強い想いが卒業アルバムの無償提供というアイデアになりました。この時は、約5万件の学校に直接FAXを送り「卒業アルバムを作れなくて困っている理由や、どうすれば困り事が解決できるか」をアンケートしました。すると、学校行事の中止や縮小、カメラマンの同行禁止によりアルバム用の写真が集まりにくいことが分かりました。


そこで、生徒自身が写真を撮影してアルバムを作ることで撮影自体が楽しい思い出となるように、インスタントカメラを寄贈するプロジェクトを実施したり、卒業アルバムを作れない学校には無償でアルバム制作の提供をしたりという活動を行いました。


卒業アルバム自体を作っていなかったという学校も、この取り組みをきっかけに毎年制作するようになったケースがありました。社会貢献が事業の成長にもつながっているのです。

 

心の問題に向き合い社会課題の解決につなげる「アルバムセラピー」
記憶や感情のアウトプットがひとにしあわせと変化を生む

 

2012年からは、アルバムを使って思い出を追体験し心の中の感情を言語化して参加者同士で共有する「アルバムセラピー」を実施しています。


これは、自分の過去の写真の中から自己肯定感の源である愛されていた記憶と、1人で生きてきたわけではない周囲への感謝を心の中から引き出していくものです。写真を見て思い出す当時の感情から自分や周囲の人への感謝、自分の気付かなかった愛情に気付き、自己肯定感を高めることで現在の人々が抱えがちな孤独感や無価値感、自己否定などへアプローチします。


林さん自身が「世界で一番大好きだったおばあちゃんの思い出を残したい」という強い想いが起業する動機となったことから「会社経営を継続すると共に幸福感を得るには、利益や社会貢献、世間からの見え方を考えるよりもまず、心の底から『私はこれが大好き』という自分軸が必要になる」と考え「参加者の方たちの『好き』を、アルバムを使って思い出の中に入ることで探してみよう」と発想したのです。


開講前は「本当にアルバムから好きなことを見つけられるだろうか」と半信半疑でしたが、大きな反響がありました。参加者の方からは「本当にやりたいことが見つかりました」「学歴やスキルがなく自分に自信が持てなかったけど、大好きなお菓子作りで人に喜ばれる仕事をやってみたい」等の感想がありました。


現在、世の中にはさまざまなセミナーがありますが、その多くは考え方や情報をインプットするタイプの外的刺激を受けるものです。一方で、アルバムセラピーは講師から何かを教えたり働きかけたりするのではなく、ナビゲーターとして参加者の心の中から忘れていた感情を引き出すサポートをする役割に徹して、参加者の過去の写真にこそ力があることを信頼します。外的刺激ではなく内的刺激を受けられるので強烈に動機づけられて行動変容まで起こると分析されています。


アルバムセラピーの参加者の方に感想を聞いたところ「涙が出た・出そうになった」という方の割合が90%を超えていたそうです。大学との合同研究により学術的な効果検証を進めた結果、アルバムセラピー受講後は幸せホルモンであるオキシトシンの分泌量が増えるというデータが得られ、思い出をたどることで喜びや安心感が生まれ、内面を癒す、セラピーとしての効果があると考えられています。

 

「その行為は人の心の温度を上げることにつながっているか」
理念を胸に、社員一同で思い出づくりの世界ブランドを目指す

 

これまで夢ふぉとでは、カンボジアの学校建設や学費支援など、主に発展途上国の子どもたちの教育のためのCSR活動に取り組んできました。TABLE FOR TWOを通じてアルバムを一冊納品するごとにアフリカの学校給食1食分20円を継続支援し、合計で約30万食分以上の金額を寄付しています。日本の子どもたちと発展途上国の子どもたちをつなぐ役割を果たしていけたら社会的な意味や価値がある、という考えが支援の動機になっています。


今後はCSRから、事業を推進しながら社会課題を解決するCSV経営の領域へと一段活動のステージを上げることを目指して、さまざまな取り組みを模索しています。

 

林さんは、自身の起業のきっかけとなった祖母の口癖「ありがたい・もったいない・人さまの為に・親を大事に」を起点に、「これらの人として一番大事なことを全世界の人ができたとしたら、日本で問題となっている、分断や無縁社会による社会課題だけでなく、世界の戦争や貧困がなくなり、平和に変わるかもしれない。そのきっかけとなる力が思い出アルバムにはある」と考えています。


そして今後については「CSVの経営しかしない。人の心の温度を1℃上げることで社会課題解決につながる事業しかしない」と決めており、所属しているスタッフ全員が「その行為は人の心の温度を上げることにつながっているか」を常に考えられるよう、理念浸透を促進しています。


夢ふぉとは、思い出づくりの世界ブランドを目指しています。それは世界一という規模や売上を意味するものではありません。「なくてはならない企業、世界で一番人の心に深く寄り添うことのできる企業」という意味です。お客様ヘの思いやりの深さで一番となる商品やサービスを提供し続けたい」という想いのもと、新規のサービス開発や社会貢献に取り組み続けています。


これもやはり林さんの祖母の言葉が原点となっており、「偉い人にならなくても良い、なくてはならない人になれ」という言葉の「人」を会社に置き換えて、思い出アルバムの世界観の変革に挑戦し続けています。 

 


 

<有識者の視点>

SSC評議審査員 天明 茂  

フォトの価値を生かして、人の心を癒し、未来につながる事業を創造

 

誰の家にもあるアルバムを、自己肯定感のアップ、さらには世界平和にもつなげていくという発想に驚きました。幼い頃からお祖母様の口癖が体に染み込んでおり、その思いが林さんの夢ふぉと事業のバックボーンになっています。

 

アルバムを使った「アルバムセラピー」というアイデアにはとても共感できます。例えば、母親のことを嫌っていた子どもが、写真を見て大切に育てられていたことを知る。幼い時の思いが浮かび上がってきて、母親への愛を取り戻す。

 

アルバムを見て、自分が愛されていたことを実感すれば、周囲への尊敬や感謝の思いを持つことができます。このアルバムの魅力を事業化し、個人だけでなく、学校や企業へとそのセラピーを展開していく林さんの創造力は見事です。

 

幼少期に家族の歴史を聞くことは、子どものアイデンティティにつながるという心理学の研究結果があります。現在の自分につながる家族の歴史を思い出すことで、その後の自分の成長を体系的に捉えることができるのです。すると、課題に取り組む意欲や課題解決能力が高まり、ストレスの影響も抑えられるようになる効果があるそうです。

 

アルバムセラピーを親世代が受講することで、「自分は古い写真に癒され、自己肯定感を高めることができた」と実感できれば、自分の子どもに美しい思い出を残してあげようという思いが深まり、家族の絆が強まるに違いありません。

 

アルバムを通して過去の歴史や先祖の生きざまが分かれば、未来に向けてどのような家族の関係性を築くべきかが自ずと明らかになります。その意味で、家族の歴史を子どもや孫を含めた未来の世代に伝えていくことができたら、さらにその価値が高まることでしょう。

 

家族関係の希薄化や家庭崩壊が叫ばれる今だからこそ、夢ふぉとを応援したい気持ちでいっぱいです。