社会変革のためのプロジェクト

2024/11/20

廃棄シーツから弘前ねぷたへ。青森の資源再生モデルを鍵に、共生共榮を目指すクリーニング業3代目の挑戦

●創業:1963年
●業種:クリーニング業(リネンサプライ/ユニフォームレンタル/業務クリーニング/ダストコントロール/アクアクララ/介護用品販売/家庭・学校向け布団貸出)
●第7期未来創造企業認定
●未来創造企業としての取り組み: 障がい者の積極的な雇用、子ども未来応援自販機の設置、廃棄シーツの再利用、こどもミュージアムプロジェクトへの参画、ボトルキャップアクション、サーキュラーコットンペーパーへの参画

 


 

青森県で70年間続くクリーニング業を営む企業の3代目として生まれ、

現在は共立寝具株式会社 代表取締役として400名の社員を率いる久保栄一郎さん。


家業を発展させるとともに、独自の道も切り開いてきた。

お客様のたった一つ(one)の大切な服をもう一度もっと元気に(more)

という思いを込めて、重曹と天然石鹸で洗う水洗いを実現した「one more」。


さらに最近は企業の枠を超え、

地域、そして地球全体の課題解決へと取り組んでいる。


青森ペーパープロジェクト。

地元で出た服やシーツなどの繊維ゴミを紙に変え、再利用することで

資源を有効活用し、環境汚染の大きな要因である、服の廃棄問題に向き合う。


すぐに結果が出ることでは、ないかもしれない。

それでも未来の子どもたちのために、地域の仲間たちと手を取り合い、

青森オリジナルの資源再生モデルの確立へと挑む。

 


 

【目次】

●青森ペーパープロジェクト 幸せが循環する仕組みづくり
●服が環境汚染の2番目の原因に その事実で心が動いた

●行動を起こした背景には自身の経営する企業理念との共感があった

●本質は「資源の有効活用」利用用途を柔軟に模索

●「青森の資源再生モデル」を構築する 目指すは「地産地消」
●プロジェクトを事業化していくことを目指す

 


 

青森ペーパープロジェクト
幸せが循環する仕組みづくり

 

東北三大祭りの1つである「弘前ねぷた祭」。毎年夏に開催されており、今年は約100万人の観光客が訪れ、夏の風物詩を楽しむ人たちで街は賑わいを見せる。


ねぷたと言えば頭に浮かぶのは、夜の暗闇にまばゆい光を放ち、壮大な装飾とデザインで人々を魅了する光景。このねぷたは、限られた制作プロフェッショナルである「ねぷた師」が木の角材でつくった骨組みに奉書紙と呼ばれる和紙を貼り、絵を描き上げてつくりあげられている。


この伝統のねぷたに、環境問題の取り組みを掛け算した面白いプロジェクトが進んでいる。

それが、ねぷたに使われる紙を、環境に配慮した“青森産の紙”にしようというプロジェクトだ。青森県で排出された服やシーツなどの繊維ゴミを紙に変え、その紙を用いてねぷたをつくろうというのだ。ものづくりに循環を組み込むことで、資源を有効活用することを狙っている。


実施しているのは「青森ペーパープロジェクト」のメンバー。率いるのは、青森県で70年間続くクリーニング業務を行う共立寝具株式会社の代表取締役、3代目の久保栄一郎さんだ。


「プロジェクトのメンバーは青森の経営研究実践会のメンバーを中心に10人ほどで、発酵料理の協会や建築設計事務所の代表、アーティストなど、さまざまな人材が集まっています。もともとは、繊維ゴミを紙に変える活動をしている、CCF(サーキュラーコットンファクトリー)代表の渡邊智惠子さんが五所川原立佞武多で2年前にはじめた活動で、昨年8月に渡邊さんと出会ったことからプロジェクトを立ち上げ、弘前ねぷた祭でもその活動を、はじめることになりました」


さらに、ねぷたに利用した紙は通常捨てられてしまうものだが、青森ペーパープロジェクトでは、アート作品やお土産の箱にするなど、「幸せが循環する仕組み」をつくろうとしているという。

 

服が環境汚染の2番目の原因に
その事実で心が動いた

 

久保さんが青森ペーパープロジェクトを立ち上げようと決意したきっかけは、CCFの渡邊さんから“世界の現状”について説明を受けたことだった。


「私の本業はクリーニングなので洗剤や水による環境への影響は実感していましたが、服のゴミが世界で2番目に環境を汚染していることは知りませんでした。服のサイクルが早まり、売れ残りが大量に出ているだろうなとは感じていたものの、廃棄のために服が新品でカバーがかけられたままシュレッダーにかけられている映像を見て、自分にも何かできることがあると感じたんです」


加えて、衣服の自給率が日本はほぼゼロであることや、日本で販売されている服が発展途上国の劣悪な環境でつくられていることも、強く心に響いたという。


「そういう環境でつくられたものを私達は何も感じずに廃棄している現実がある。渡邊さんはその現状を直視して、未来の子どものためという思いで動いていると感じました。私にぜひ現地でやってほしいと依頼されたことで心が決まりました」

 

行動を起こした背景には
自身の経営する企業理念との共感があった


久保さんの心が動いたのは、自身が経営する共立寝具が掲げるビジョンや、グループ会社として新たに立ち上げた「one more」の根底の理念と共感する部分があると感じていたことも影響している。


共立寝具は「共生共榮」のビジョンを掲げ、誰か1人が幸せになるのではなく、同じ時代を生きる人々が共に生き、共に栄えていくことを大切にしてきた。


また、久保さんが2019年に設立した「one more」には、「お客様のたった一つ(one)の大切な服をもう一度もっと元気に(more)」という思いが込められている。one moreは、洗剤の利用が当たり前であるクリーニング業界で、赤ちゃんでも安心して着ることができて、大切な服を縮めずに長く着続けることを可能にした、水洗いによるサービスを提供している。


「大量生産、大量消費のなかでモノを大切にする心が失われてきていると感じます。製造を行う発展途上国の現場も劣悪な環境のまま変わっておらず、政治の世界でよく使われる“今だけ、自分だけ、金だけ”の世界になってしまっています。その流れのなかで、私達は自分とまわりの繋がりを大切にしたい。これは創業者の祖父、2代目の父からも受け継いでいる思想であり、その思いでプロジェクトにも取り組んでいます」

 

本質は「資源の有効活用」
利用用途を柔軟に模索

環境に良いことは簡単には広まっていかない現実があるものであり、久保さん自身も、この取り組みをはじめてからその課題を実感したという。


「青森産の紙をねぷた師に“環境に配慮した紙です”と渡しても響かなかったんですね。なぜなら彼らはアーティストで、クオリティを出すことが第一だから。紙を変えることで発色などが変るので、リスクのある行為なんです。それに対して紙の改良を行ってきました」


同時に、紙の利用用途をねぷたに限定するのではなく、誰もが幸せになるための発展・拡張の道を久保さんは探しはじめた。


「紙の市場で考えれば、普通の紙と比べると再生紙は価格や性能の勝負で勝つことは難しい。いかに付加価値を上げていくかを考える必要があります。そこでヒントになったのが、今年からone moreで売りはじめた、青森ヒバの廃材を使った防虫剤。削りくずがたくさん出るので、それを製品化して、ねぷたの使い終わった紙をシールにして貼って販売したところ、300個つくったら半年でもう売り切れそうになるほどに売れています」


紙を直接販売するのではなく、付加価値をつけて商品化することで成功体験を得た久保さんは、さらに次の展開を考えている。「ペーパープロジェクト」という名前が付いているものの、本質は資源の有効活用のため、アウトプットを紙にこだわる必要はありません。


「one moreは環境に優しいことが根底にあり、そこに興味をもつお客さんが多いので、繊維ゴミからオリジナルのクリアファイルをつくってみました。ねぷたの絵師や地元のイラストレーターさんに青森の四季の絵などを描いてもらって、オプションとしてお客さんに渡して、その売上の一部を環境保全に使えたらいいと思っています。年内にはじめる予定です」

 

「青森の資源再生モデル」を構築する
目指すは「地産地消」

 

青森産の再生紙の価値を上げるために、久保さんはマーケット視点やストーリー構築に力を注いでいくことが重要と実感している。


現在は、繊維ゴミを紙に変えるという工程ありきで、つくり手の事情や考えが優先されるプロダクトアウト方式になっていることは否めない。今後はマーケットのニーズを逆算した、マーケットイン方式に変えることで、消費者が欲しいものと、プロジェクトが提供したい価値をすり合わせていこうと考えているのだという。


「それはクリアファイルでもできていると思っています。ただ、再生紙の製造から販売までのストーリー構築はまだできていないので、そこは課題ですね。つくって売れればいいではなく、このプロジェクトは短期で終わるものではなく長期で続けるものなので、青森産の紙ならではのストーリーが必要になると感じています」


ストーリーを世の中に対してわかりやすく示すためには、「青森の資源再生モデルをつくることが必要」と久保さんは話す。


「地産地消のように、自分の出したゴミが何かに変わってまた自分の手元に戻ってくるという実感があるものがいいと思うんですよね。ペットボトルはその実感がわきづらいので、カレンダーなどのノベルティがよいかなと考えています。個人では将来的にはクリーニング店舗で回収したTシャツやタオルで紙をつくって商品をつくり、それがお祭りの場で売られて、県外の人のお土産になるといいですね」

 

プロジェクトを事業化していくことを目指す

青森ペーパープロジェクトは、メンバー全員が経営者や個人事業主として“本業”の事業があるなかで活動を行っている。そのため、活動に参加できる時間や、割けるリソースは必然的に限られてしまう。


そのなかで久保さんが精力的に活動する理由はどこにあるのだろうか。


「紙を使っていない業種はなく、どの業界でも展開できるので、アイデア1つで面白い展開を考えられる可能性を感じているからですね。以前、メンバーの会社で、日本酒のラベルを再生紙にして、書道家に書いてもらって、環境にやさしいとアピールしたところ、その場で200本ぐらい売れました。身の回りにあるものでいくらでも考えられるし、私は考えるのが好きなんです」


久保さんは自分と同じように面白がってプロジェクトに注力してくれる仲間を求めるとともに、プロジェクトを事業として確立することも必要と考えている。


「現在は当社で使い古したシーツなどから、再生紙をつくってもらっていて、プロジェクトとして収益が出るほどには、まだなっていません。ねぷたは来年以降もやる予定ですが、年に一度で、収益にならないものではメンバーのモチベーションを上げるのは難しい。だからこそ、1つのモデルをつくって、目指すべき未来をわかりやすく示すことができればと考えています」


誰か1人ではなく、関わる全ての人が栄えるために、久保さんはこれからもプロジェクトの取り組みを進化させていく。