社会変革のためのプロジェクト
- 2024/11/20
全ての若者が夢や希望、IKIGAIを持って働ける社会の実現を目指して。本格的なキャリア教育を普及させ、社会で活躍できる能力を高校で習得できるマイスター高等学院を開校
●創業:1994年
●業種:建築×地域活性化
●第5期未来創造企業認定
●未来創造企業としての取り組み:若者が未来を描ける教育事業
「教育」から「国」を改革する
タイムリミットは残り25年。それまでにできることは何か――
強い危機感をもって、国の根幹である「教育」を変えようと挑戦しているのは
株式会社四方継 代表取締役CEOであり、
一般社団法人マイスター育成協会の創設者である高橋剛志さんだ。
暗記型の詰め込み教育に疑問を抱き、自身も17才で高校を中退。
その後に建築業界に入り、会社を立ち上げるまでになった。
社会で活躍するために必要な教育は「本質的なキャリア教育」という信念のもと、
新たな学校「マイスター高等学院」を仲間たちと開校した。
それは人材不足に悩む建築業界をはじめとした地域企業を救う一手にもなる可能性を秘めている。
若者が夢や希望をもって飛び込んでくるようになれば、
その業界は自然と活性化する。
開校2年目。「教育の新しいスタンダード」の確立を目指して、改革を実践する。
【目次】
●新たな学校の形「マイスター高等学院」
●義務教育の課題と、地域企業が抱える課題 両方を同時に解決するための学校
●原点は「職人の社会的地位向上」を掲げた「職人起業塾」
●日本が壊滅状態になる2050年までにできることを実践していく
新たな学校の形「マイスター高等学院」
少子高齢化が進む現在の日本は、さまざまな課題を抱えている。社会全体で大きな変化を求められており、社会保障や税制、地域のインフラなど、取り組むべきテーマは山積みの状態だ。
その1つに「教育」があり、株式会社四方継 代表取締役CEOの高橋剛志氏は、新たな挑戦をはじめている。昨年2023年に一般社団法人マイスター育成協会を設立し、「マイスター高等学院」という“新たな学校”を開校した。
マイスター高等学院は一般的な全日制の高校とは異なり、通信制高校と連携することにより、「実際の現場で職業教育を受けながら高等学校の卒業資格を取得」できる学校だ。通信制は年間数日の登校スクーリングとレポート提出、そして単位認定試験に合格することで単位認定が行われる。特筆すべきは志を立て、主体性、コミュニケーションといった人間力を身につける授業がカリキュラムに組み込まれていることだ。
「マイスター高等学院は、建築系の大工・左官・板金・内装・設備・塗装・足場・電気・土木などの建設系の事業所からスタートを切ったが、現在は製造業や福祉など様々な業種に拡大している。専門技術・知識の習得のためのOJTを受講する場合は給与が支給されるので、収入を得ながら高校卒業と技術が手に入る」
学生が授業を受ける学校は、校舎ではなく「企業」であることが大きな特色だ。令和6年時点でマイスター育成協会に所属する13社の建築系企業がその対象となっており、令和7年には北海道から沖縄まで全国で様々な業種の総数50社近くの事業所が開校を予定している。
「授業はOJT基礎技術や人間力を高めるマイスター養成講座、高校卒業の単位取得のレポート作成などがあり、各現場の職人の先輩が先生になり、技術を教えている。マイスター高等学院の参画事業所は経営実践研究会に所属しており、未来創造企業の認定企業に限定。地域や社会、環境に貢献していると第三者から認められた会社であり、正規雇用で社会保障を備え、労働法も順守している。卒業後は原則その会社に就職し、キャリアを重ねることができる。」
義務教育の課題と、地域企業が抱える課題
両方を同時に解決するための学校
マイスター高等学院は「本質的なキャリア教育の普及」を目的としている。開校した背景には、高橋氏が日々実感している日本の教育への課題があったという。
「現在の教育は暗記競争で、先生に言われたことをそのまま覚えて、その通りにやる子は成績がいい。一方で、自分の意見や考え方があると排除されていく。先生の言うことを聞いていたら楽に生活できるよと教育されてきたわけで、これは奴隷と一緒だ」
髙橋氏自身は17才で高校を中退し、建築の道へ飛び込み、自らの努力で会社を立ち上げてきた。その実体験からも、学歴社会をベースとした知識詰め込み型の教育ではなく、将来、社会で活躍できる人材を育成することの重要性を強く感じている。
教育の課題と同時に、建築業界もまた別の課題を抱えている。それは「大工の世界に若者が入ってこない」という切実な問題だ。
「職人になりたい若者がいない。近年激増している小中学校の不登校児は約33万人いると言われ、その生徒も99%が高校に進学する。しかし高校に行っても意味や目的がないことに気づき、多くの生徒が中退する。その生徒たちは、8割がフリーターや派遣社員の不正規雇用になると報告されている。学校の成績や評価に関係なく、多くの選択肢とチャンスがある世界をつくりたい」
学歴に関係なく努力が報われる、そんなチャンスをつくるとともに、若者自身が「建築業界で働きたい」と思う体制づくりにもマイスター高等学院は注力している。それは高校通学中に基礎技術や職業人としての基礎を教え、卒業と同時に正社員として雇用し、安定と同時に将来のキャリアパスを明示することだ。
「なぜ、若者が職人になりたがらないのか。シンプルに若者が働きたい環境ではないからだ。殆どの職人は正規雇用されず日給月給でアウトソーシング的に雇用され、保証がなく、道具のような使われ方をしている。他社がやってこなかった、技術を教え、正規雇用をして、社会保障をつける職人育成を当社は長年やってきた。建設業界の誰もが『今だけ、金だけ、自分だけ』の思考に陥り、職人がいなくなったら建物を建てる、守ることが出来ないと分かっているのに何もしようとしない現実に憤りを感じていた」
現在の日本の教育の現場では社会で活躍する人材を育成するための本質的なキャリア教育がされておらず、建築業界では技術以外の人間力を高める教育がされていない――これらの課題をマイスター高等学院は同時に解決し、さらに将来の建築業界を担う人材を育成することを可能にする。
「圧倒的な人口減少局面になり、日本が消滅するような危機に陥っている。その根本を正すためには教育を変えるしかない。根本解決にアプローチしないと、同じことを繰り返す。この改善は建築業界の存続に直結する」
原点は「職人の社会的地位向上」を掲げた「職人起業塾」
髙橋氏が教育に取り組みはじめたのは、今から10年以上前にさかのぼる。「職人の社会的地位の向上」をミッションに掲げ、2012年に「職人起業塾」を立ち上げ、業界内で職人の人材育成とキャリアアップ、正規雇用の推進に注力してきた。
「若者がいなくなってしまう業界の共通点は、不安定で低賃金、未来に希望が持てない仕事。つまりキャリアパスがないこと。大工や職人は一人前になるまではステップアップが明確だが、その後は経営者になるか一生職人を続けるかの2択しかない。特に建築業界は非正規雇用の温床になっているから、高齢になると見習いの頃の安い給料に逆戻りしてしまう。肉体労働が厳しくなったら知的労働で稼げる、経験を知見に変えて年齢を重ねても安心して働き続けられる世界をつくりたいと考えていた」
その思いをもとに、自身が見習工から一人前の大工、経営者へとステップアップしてきた実体験をベースに教育プログラムを作成し、自社の職人に対して研修を実施してきた。
教育で重視していたことは「なんのために働くのか?との問いを持つ」「指示待ちではなく、自分で考えて動ける人間になれ」という在り方と主体性だ。マイスター高等学院が掲げる「本質的なキャリア教育」の原点は、ここに詰まっている。
「社内研修、システム構築を続けていたら当社は自律型の職人集団になった。社員の職人と設計士がタッグを組んで顧客の窓口を務め、契約を交わし業者や材料の段取りをして仕事を進めていくようになっている。独立して経営者になった者もいれば、社内に残り共に経営陣となってマネジメントする者もいる。どちらにしても将来のキャリアパスが明確になり、若者も未来を描ける」
自律型実務者を育成する社内研修が業界内で話題となり、工務店協会から「社外に対しても実施してほしい」という依頼があり、開始したものが「職人起業塾」だ。そして、このプログラムを「高校生版」につくりかえて実践しているものが、人間力を養うマイスター育成コースとなっている。職人起業塾では半年間で行うプログラムを、6倍の3年間という時間をかけて、若者に向けて本質的なキャリア教育を実施している。
日本が壊滅状態になる2050年までにできることを実践していく
マイスター高等学院は具体的かつ実践的な教育機関だ。
高校生の3年間で職人の基礎技術を身につけることを目指す。座学では、「卒業後5年で一人前の大工になる」「次に2級建築士などの資格取得を目指し、施工管理や営業、設計の力も身に付ける」と、リアルな目標やキャリアパス、年収を生徒に提示する。
「実際に当社の社員がこのキャリアパスに則って2級建築士を取り、デザインの勉強もして、社内の設計士とタッグを組んで自邸の建築を行ったところ、建築デザインコンテストでダブル受賞した。今はかなり稼ぐようになったが、入社した17年前は鉄筋の見習工で、中学も行っておらず、人の目を見て話せなかった。コツコツとキャリアを積み上げると、誰でも本当に社会で活躍できるようになる」
髙橋氏が建築業界における、職人の若年層の入口から高齢層の出口までのワンストップモデルを明確に築いたことで、希望をもって業界に入ってくる若者は今後増えていく可能性は大いにある。
「現在、生徒受け入れを行っているのは建築業のみだが、既に農業や製造業、福祉事業などにも広がっている。年内で、一社)マイスター育成協会への参画企業は100社まで増える予定で、上場企業からも賛助会員への申し込みがある。10年後には各市町村に普及、1700校の開校を考えている。雪だるま式に参加企業が増えてマイスター高等学院が広まっていくと、これが教育のスタンダードになる。学生が遊び感覚でインターンシップに行くのではなく、本質的なキャリア教育を普及していきたい」
髙橋氏を駆り立てているのは、冒頭でも記載した、日本に対する強い危機感だ。
「2050年に日本の人口は30%減が確定的だと総務省が発表。若年層の人口はその中のたった10%のみ。その先は全国が夕張と化して次々に自治体が壊滅するのが確定する。残り25年間が日本を存続させるラストチャンス。滅亡しかけている日本を取り戻すには、私達に一体何ができるのか?と自問自答を繰り返した結果、残りの人生をかけて取り組んでいるプロジェクトだ」