社会変革のためのプロジェクト

2024/11/11

製造業界に革命を。コミュニティ内の仲間が困っていれば、強みを持ち寄り解決する「ものづくりパートナーズ」

●創業:1954年
●業種:伝動機器・軸受・変減速機・ベルト・機械工具を主とする卸・小売業
●第5期未来創造企業認定
●未来創造企業としての取り組み:製造業の地域企業が共創するコミュニティ

 


 

高品質と裏腹に、暗雲立ち込める製造業界。


日本のものづくりは世界に誇る産業だ。

緻密で精緻、高品質な製品をつくりだす技術は他の追随を許さない。


ただ、国内製造業の未来には暗雲がたちこめている。

後継者不足などを理由に多くの中小企業が廃業の危機にある。


卸商社の大矢伝動精機株式会社の代表である大矢顕氏は、

顧客である製造業の課題を解決しようと新たな取り組みをはじめている。


その名は「ものづくりパートナーズ」。

仲間が困っていれば、それぞれが強みをもちより解決していく、

製造業に特化した新たなコミュニティだ


そこから新たな製品や法人が生まれ、少しずつ成果が生まれている。

さらに大矢氏は製造業を盛り上げるため「村づくり」をしようとしている。

 


 

【目次】

●「差別化が難しい」という課題を抱える卸商社

●顧客である製造業も同様の課題を抱えていた  2代目の父の死をきっかけに、活動を具体化

●「製造業の中小企業が救われる世の中にしよう」 その思いを実現する「ものづくりパートナーズ」

●目指すは「製造業界のメルカリ」

●目指すは共感資本社会の村づくり  世界から注目される製造業特区へ

 


 

「差別化が難しい」という課題を抱える卸商社

工場業務の自動化を実現するFA機器をはじめ、鋼材や金属加工の卸商社である大矢伝動精機株式会社は、1954年の創業以来、顧客である製造メーカーとともに日本のものづくりを支えてきた。


現在、代表取締役を務める大矢顕氏は、会社の枠を超えて、製造業全体に改革をもたらす活動を推進し、注目を集めている。その活動の背景には、製造メーカーと卸商社が抱える課題があった。


「26歳で家業である当社に入社する前に、新卒で仕入れ先の会社で3年間働いた。そこで見えたのは、メーカーの部品を買おうと思ったらどこでも買えることだった。うちの会社や、卸の業界が続いていけるのかと危機感を覚えた。2代目の父からは修行中に事業計画を書けと言われ100年続く会社にすると書いたが、このままでは難しいと感じた」


その後、後継ぎとして家業に入社し、冷静に自社の事業を分析しても印象は変わらなかった。商社として他社との差別化ができておらず、「大矢伝動精機さんの強みは何?」と顧客に聞かれても答えられなかったという。さらに、商社は既存の付き合いで成り立つ特性があり、新たに顧客を開拓することが難しく、発展の道筋が見えなかったと大矢氏は振り返る。


「2007年のリーマンショックでは売上が6割減少した。当時の売上の25%を占めていた卸先の会社が倒産して、2億6千万円の焦げ付きがあり、このままでは倒産するというほどのピンチがあった」

 

顧客である製造業も同様の課題を抱えていた
2代目の父の死をきっかけに、活動を具体化

画像出典:大矢伝動精機株式会社YouTubeチャンネル

 

倒産の危機を回避しようとあらゆる策を打ち出しながら、大矢氏は製造業の多くの会社もまた卸商社と同じ課題を抱えていると実感していた。


「製造業の方々に強みは何かと聞いても多くの会社が答えられない。注文を受けた製品をつくることが大半だから、当然ながらクリエイティビティがあるわけではない。さらに、不景気で仕事がない、後継者がいないなど、ネガティブな要素がたくさんあった」


主な顧客である製造業の売上が上がらなければ、卸商社である同社の成長はない。「商社は製造業を支援する、お客様が困っていることを解決することが仕事だと考えている」という大矢氏の考えが、新たな活動を生み出していくことになる。


2020年に2代目の父から代表を交代したことから、さまざまな物事が動き出していった。


「父は婿養子の2代目で『俺は先代と3代目の顕の架け橋でしかない』といつも言っていた。その父が交代した翌月に末期がんと判明して亡くなった。私は父に自由にやらせてもらった。それを社会に返したいと思って、勉強会への参加などいろいろな活動をはじめた」


その活動の1つが、同年に立ち上げた「ものづくりパートナーズ」だ。


「最初のきっかけはコロナ禍でルートセールスに行けなくなり、私が製造業の経営者と対談したものをYouTubeで配信したことだった。製造業の方々にスポットライトを当てて話を聞き、付加価値を上げることで、当社の数字も上がることを狙ってはじめた」

 

「製造業の中小企業が救われる世の中にしよう」
その思いを実現する「ものづくりパートナーズ」

YouTubeの対談動画配信からスタートした「ものづくりパートナーズ」は、その後すぐに「困っていることがあったら、みんなで力を合わせて解決していく」という活動へと発展していく。


そのきっかけは、大矢氏が自ら製品をつくった実体験にあった。


「当社もオリジナリティを出したいという課題があった。そのときに飴をつくっている加藤製菓と、塩ビタミンゼリーという尖った商品をつくっている友人と話をして、3人で美味しい塩飴がないからつくろうと、オリジナルの塩飴を開発・販売した。この形でさまざまな課題を解決できるのではないかと考えた」


2021年に経営実践研究会の入会を経て、社会課題活動を本格化しようと翌年に仲間4人と「一般社団法人ものづくりパートナーズ」を立ち上げ、「製造(ものづくり)業、製造(ものづくり)業を応援する者」を対象に製造業を中心としたコミュニティを設立する。


「仲間と『製造業の中小企業が救われる世の中にしよう』という共通の思いのもとに立ち上げた。中間業者が利益を取りすぎている構造がある。今はつながりがお金に換算されていて、その結果、社会が悪くなっている。自分自身が飴をつくった実体験から、仲間でつくればコストはかからずに社会が良くなる可能性を実感した」


その言葉通り、「ものづくりパートナーズ」の月会費は1,000円と格安だ。現在は252社が参加するコミュニティとなり、1,000社を目指しているという。

 

目指すは「製造業界のメルカリ」

ものづくりパートナーズの活動は多岐にわたる。その中心にあるのは「困っていることがあったらみんなで力を合わせて解決していく」ことに他ならない。


「製造業界のメルカリを目指している。会員だけが利用できる『ものぱアプリ』があり、そこには『相談箱』がある。困ったことや、こんな製品をつくりたいから力を貸してほしいなど、コミュニティ内で何でも相談できる。実際にその中でつながって、新しい製品や会社が生まれている。私はそれをつなぐコーディネーターという立場で動いている」


ものづくりパートナーズから生まれた具体的な例としては次のようなものがある。


「トルクタイヤのナットが緩んで外れて事故が起きることが多発していた。その対策として緩みを判別する製品があるが、国産のものはなかった。外国製のものはデザインや性能の部分で課題を感じていた。そこで当社には3Dプリンターがあるため製造業と組んで素材から開発して、大手タイヤメーカーと契約するまでになっている」


また、製造業の課題である人材不足、若者との接点不足の解消にも乗り出している。大矢氏は「世界ものづくりフェスティバル」を自ら企画し、今年8月に名古屋で大々的に開催した。


「若者が気軽に参加できる地域企業との交流イベントがない。また、製造業の経営者も将来働いてくれるかもしれない高校生や若者との接点がほしい。製造業のフェスは愛知にはないから、それならば自分たちで場をつくれば全員にとってウィンウィンになると考えた」


イベントの内容はユニークだ。大矢氏がプロデュースした独自のアイドルグループ「ものぱガールズ」がステージで歌って踊り、『アメトーーク』のような、製造業の経営者によるクロストークがあり、若者を喜ばせる視点でつくりこまれていった。


「フェスは台風のなかで行われたが学生は300人、出展企業は30社にのぼった。遊び心をもって双方の交流ができて、将来はこの会社で働きたいと思えるような機会をつくりたかった。デジタル化して接点がなくなったことによるデメリットをリアルイベントで解消できたと考えている」

 

目指すは共感資本社会の村づくり
世界から注目される製造業特区へ



現在は製造業の中小企業だけでなく、大手企業も巻き込んでいくことを考えている。


「中小だけでやっていては構造が絶対に変わらないと実感した。大手企業も元気がある若者やアイデアがある若者に会いたいけど会えていないといった共通する課題がある。最近はアプローチを積極的にしており、丸紅や京都銀行との交流会を行う予定などがある」


さらに、その先の構想も描いている。大矢氏の根幹にある思いは「製造業に必要なことを全部やる」だ。


「お金だけじゃない共感資本社会を目指す村づくりを掲げている。世界から愛知にこんな面白い取り組みをしている地域があると注目されたい。3.5%の積極的な活動をする仲間がいると革命が起こると言われている。愛知県製造業労働人口約85万人と言われているので、ものづくりパートナーズの参加経営者が1,000名に増えれば、その企業の社員平均30名が仲間になると3万人になり、3.5%になる。そこを目指していきたい」


それはさながら製造業特区をつくりあげるような大きな構想だ。将来は村のなかで独自の通貨をつくり、学校や塾も建てたいと大矢氏は話す。国内にとどまらず、マレーシアにも学校をつくろうとJICAと戦略を練っているという。


「新しいことを1人でやろうとすると地域では目立って叩かれたりする。私は0から1を生み出すアイデアマンと言われるが、他の業界で良いと思ったものを製造業に合わせて話しているにすぎない。業界に合わせて翻訳するコーディネーターが今後はさらに必要になるため、増やしていきたい。それが製造業、ひいては地域全体が良くなることにつながると信じている」