社会変革のための
プロジェクト

2026/02/22

「誰かの意思決定」に人生を預けない。一度は住民ゼロの町となった福島・小高から始まった“自立する地域”づくり(OWB株式会社 和田 智行 氏)

東日本大震災と原発事故は、地域の景色だけでなく、人の「人生の手綱」まで一気に奪っていきました。福島県南相馬市小高区で生まれ育った和田さんも、その当事者のひとりです。避難区域となった故郷を離れ、家族とともに6年間の避難生活。防護服を着なければ自宅にも入れない——町から人が消えた光景は、まさにゴーストタウンでした。

 

そんな状況に直面したとき、和田さんの胸に湧いたのは「怒り」でした。事故や政策への怒りというよりも、自分の人生が“画面の向こう側の誰かの意思決定”に振り回されていることへの、情けなさと怒り。そこから和田さんは問い直します。「真の自立とは何か」。お金を稼ぐだけでは、自立したとは言えないのではないか——。

 

事例企業情報

  • ・OWB株式会社(旧 株式会社小高ワーカーズベース)
    ・2014年創業
    ・活動エリア 福島県
    ・代表者 和田 智行 氏
    ※本記事の内容は2025年4月の会員プレゼンテーション(CLミーティング)の動画をもとに作成しています。

 

 

人がいなくなった町で、創業するという選択。100の課題から100のビジネスを生み出す

震災から3年後。

まだ避難指示が解除される前に、和田さんは小高で創業します。避難場所であった会津若松から通いながら、事業を少しずつ形にしていきました。

 

2016年7月に避難指示が解除され、住民は戻り始めたものの、人口は震災前の約3割。子どもは激減し、高齢化率は5割近くにまで上がりました。

 

 

課題だらけの地域。けれど和田さんは、そこに“絶望”ではなく“可能性”を見出します。

 「課題はすべてビジネスの種」

 そう捉え直し、掲げたミッションが——

「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」

 

どれだけ課題があっても、事業という手段で一つずつ解決していけば、いずれ課題は減っていく。経済合理性が失われた地域に、もう一度“暮らし”を組み立て直す。その覚悟が、この言葉には込められています。

 

 

 

11年で28事業。目指すのは「依存しない地域」

和田さんたちは11年かけて、住民が減った町に28の事業を生み出してきました。目標は、原発の廃炉が一区切りすると言われる2051年までに100事業。とはいえ、和田さんが本当に実現したいのは、数字そのものではありません。

 

 

目指しているのは、自立した地域です。

 

地方の課題に対して、自治体が企業誘致や大型施設誘致で雇用をつくる——この手法自体は一つの解です。ただ、地域の活性化を「外から来た企業」に委ね切ってしまうと、地域の未来は“遠く離れた本社の数人の役員”の意思決定に左右されてしまう。景気や世界情勢が変わり採算が合わなくなれば、働く人の意思とは無関係に撤退が起きる。そして企業とともに地域も弱っていく。

 

福島はかつて、原発という巨大産業に依存してきました。同じ構造に戻ってしまえば、被災した意味がなくなる。だからこそ和田さんは、「小さくてもいいから生業を起こす人」を地域の中に増やすことにこだわります。

 

 

小さな事業者がたくさんいて、共通の課題に直面したときは協力して乗り越える。成功体験がコミュニティを活性化させ、仲間が増え、次の挑戦が生まれる。その循環が当たり前になれば、子どもたちにとって「起業」は特別な人だけのものではなくなります。親も、先輩も、近所の人も起業している。だから自分もいつか——。

 

社会が変化して地域の企業が立ち行かなくなっても、次の世代がその変化に合わせた新しい事業を生み出す。新陳代謝しながら町が途切れず続く。和田さんが描くのは、そんな50年、100年、さらにその先まで続く地域の姿です。

 

 

「ゼロフロンティア」に、もう一度未来を描く

和田さんが小高で起業すると言ったとき、10人いれば10人が笑ったそうです。「誰も住んでいない町で、何をするんだ」と。ところが今では、「小高は起業家が集まる街だよね」と言われるようになった。たった11年で、地域の空気が変わったのです。

 

この変化を、和田さんは“ゼロフロンティア”と呼びます。
避難指示区域となり、経済合理性が失われ、いったんゼロになった場所。だからこそ、新しい社会をゼロから構築できる。その可能性に、経営者たちが共感し、実際に現地を訪れ、議論が生まれ、発信の機会も増えていきました。創業10周年の節目には社名も変更し、取り組みをより社会へ広げるフェーズに入っています。

 

さらに和田さんたちは、他地域の災害復興へも経験とノウハウを“渡す”挑戦を始めました。現地に足を運び、仲間を増やし、地域に招いて対話の場をつくる。そこから、宿泊施設を開く若者が現れたり、女性の雇用の場づくり(ガラス工房)を他地域へ展開する動きが生まれたり。復興は“受け取る”だけでなく、“手渡していく”ことで次の未来をつくれる——その実感が、活動をさらに加速させています。

 

 

そして和田さんは、改めて原点に立ち返ります。


「自立した地域をつくる」


その志に、人生を振り切って取り組む。だから今日、伝えたいことはシンプルです。

 

「この地域で、100の事業を一緒に生み出したい」


課題解決に挑む経営者たちと共に、事業をつくり、地域を自立的で持続可能な形へ変えていく。それは、きっと“新しい未来”のプロトタイプになる。

最後に、和田さんはこう結びます。


「この地域に100の事業喪失皆さんと一緒にやりたいです。様々な事業、様々な課題解決に取り組んでる皆さんと是非この地域で、え、どんどん事業を作っていきたいです。そして我々みたいに加速化してしまったその地域が自立的で持続可能になる。それってやっぱり新しい未来だと思うんですよ。それを共にですね、この地域で想像していただきたいと、それが今日この場で皆さんにお伝えしたかったことです。是非一緒にやらせてください。」

 

 

 

志を伝えるプレゼンテーション動画

和田さんの取り組みの詳細は、経営実践研究会内で毎月行っているオンラインプレゼンテーション(CLミーティング)の動画で知ることができます。下記動画をご覧ください。

 

株式会社小高ワーカーズベース(現 OWB株式会社) 和田 智行 氏
地域の100の課題から100のビジネスを創出する

 


 

私たち経営実践研究会では、地域企業(中小企業)が中心となり、各地で企業・自治体・様々な社会活動に取り組む方々と連携しています。

経営実践研究会は、強い輝きを放つ地域企業(中小企業)を多く輩出し、事業を通じた社会課題解決に向けた活動を行い、持続可能な社会を構築していきます。