社会変革のための
プロジェクト
- 2026/05/07
伝統は、変わり続けることで受け継がれる。会津発・新素材で挑む“文化づくり”の最前線 (株式会社 三義漆器店 曽根佳弘 氏)

福島県会津若松市。古くからこの地域は、陶器や漆器など多様な「器」が生まれてきた土地です。
しかし、その本質は単なる工芸品の産地ではありません。
会津は「素材を文化にする町」——。
そう語るのは、三義漆器店の曽根社長です。同社は創業から90年以上、漆器づくりを軸に事業を続けてきました。
木製の器に漆を塗るという伝統技術。しかしその一方で、時代の変化に合わせて素材や製法を柔軟に変えてきた歴史があります。
木は樹脂へ、天然漆は化学塗料へ。さらには射出成形による量産体制の確立など、幾度ものイノベーションを重ねてきました。
その背景にあったのは、「時代に寄り添い、使われ続ける器であること」へのこだわりです。
食洗機や電子レンジに対応できない伝統のままでは、現代の暮らしに寄り添えない。だからこそ、変わることを選び続けてきました。現在では全国の量販店に製品が並ぶまでに事業を拡大しました。
事例企業情報
- ・株式会社 三義漆器店
・1935年創業
・活動エリア 会津若松市
・代表者 曽根佳弘 氏
※本記事の内容は2025年4月の動画をもとに作成しています。
「正しいこと」が続かない時代に感じた違和感
大量生産・大量消費の仕組みを確立する一方で、「このままでいいのか」という疑問が頭をもたげるようになりました。
世の中ではSDGsやサステナブルといった言葉が急速に広まり、多くの企業が環境配慮を掲げるようになっています。
しかし実際には、社会全体が大きく変わっている実感はない——。
「みんなが良いと分かっている。でも、変わらない」
その背景には、コストという現実的な壁もあります。環境に配慮した取り組みは往々にしてコストがかかり、継続が難しい。
企業として取り組もうとしても、理想と現実の間で揺れる場面は少なくありません。
さらに、環境問題について学ぶ中で見えてきたのは、より深刻な現実でした。北極の氷の消滅リスクや海洋プラスチック問題など、地球規模の課題は確実に進行しています。
そうした中でたどり着いたのが、「環境にいいだけでは、文化として残らない」という考えでした。
安いから選ばれる、正しいから選ばれる——それだけでは続かない。
本当に長く使われるものとは、人が愛着を持ち、暮らしの中で自然と使い続けるものではないか。
その気づきが、人と地球のための新たな挑戦への出発点となります。
転機となったのは、植物由来のバイオプラスチック「PLA(ポリ乳酸)」との出会いでした。
石油に依存しないこの素材は、今後世界的に需要の拡大が見込まれています。
しかし当時、それはまだ“文化”とは呼べる存在ではありませんでした。
新素材PLAとの出会いが生んだ「IZ EARTH(アイヅアース)」
「この素材を、文化にできないか」
その問いから立ち上げられたのが、新ブランド「IZ EARTH(アイヅアース)」です。
目指したのは、サーキュラーエコノミーの思想を取り入れながら、新しい素材を“使われる製品”として社会に根づかせることでした。
最初に開発したのは、PLAと漆を融合させた杯。
伝統技術と最先端素材の組み合わせは高く評価され、ドバイ万博ではVIP来場者の記念品として採用されました。
その後も、ビールグラスなど日常使いの製品へと展開し、さらには世界最薄レベルの成形技術を実現。
ホテルの客室備品やラグジュアリーホテルでの採用など、用途は着実に広がっています。
2022年の国際会議での採用や、官邸への招待、グッドデザイン賞の受賞など、国内外からの評価も相次ぎました。
さらに、自動車分野では高級車の内装オプションにも関わるなど、伝統産業の枠を超えた展開を見せています。
それは単なる“環境配慮型製品”ではなく、「選ばれる価値」を持った製品として認められた結果でした。
地域から世界へ。循環を“仕組み”に変える挑戦
アイヅアースの取り組みは、製品開発だけにとどまりません。
「プラスチックが悪いのではなく、使い捨てる行動が問題」
この考えのもと、リユースを前提とした仕組みづくりにも取り組んでいます。
たとえば、地域コインと連動したデポジット制の導入。通常のプラスチックカップより高価格でも、多くの人が選び、返却する行動につながりました。
また、地域イベントでは数千個規模のカップを提供し、回収・洗浄・再利用するモデルも実践。
ゴミ削減やCO2削減の効果を可視化する取り組みも進めています。
さらに、企業同士の共同購入や加盟店連携、リサイクル企業との協働など、循環を支えるネットワークの構築にも注力しています。
そして今、新たな挑戦として見据えているのが「国産PLA」の実現です。耕作放棄地を活用し、甜菜(テンサイ)を原料とした生産モデルの構築。
東北や北海道の農業と連携しながら、日本発の素材ブランド「スイートビートPLA」を世界へ展開する構想です。
課題は決して少なくありません。しかし、それは同時に大きな可能性でもあります。
地域で生まれた素材が、地域で使われ、やがて自然へと還る。その循環の中に新たな産業が生まれ、地域経済を支えていく。
「地球再生の合図」
その言葉を体現する挑戦は、今も会津から広がり続けています。
伝統とは、守るだけのものではない。時代に合わせて更新し続けることで、初めて未来へとつながっていくものなのです。
志を伝えるプレゼンテーション動画
曽根さんの取り組みは、経営実践研究会内で行っているプレゼンテーション(CLミーティング)の動画で知ることができます。
ご覧ください。
株式会社 三義漆器店 曽根 佳弘 氏
事業を通して地球再生に挑戦
私たち経営実践研究会では、地域企業(中小企業)が中心となり、各地で企業・自治体・様々な社会活動に取り組む方々と連携しています。
経営実践研究会は、強い輝きを放つ地域企業(中小企業)を多く輩出し、事業を通じた社会課題解決に向けた活動を行い、持続可能な社会を構築していきます。